長引く不登校、解決法はある? 子どもが自立するための3ステップ

福田遼,秋山仁志

不登校が長期化してしまった子にとって、「学校に戻る」という目標はとてもハードルが高いものです。そんな子に対して、親としてできることは何でしょうか。

ポットキャストの人気番組『子育てのラジオ「Teacher Teacher」』のMC、福田遼さん、秋山仁志さんが解説する「子どもの自立のための3ステップ」を、お二人の著書より抜粋してご紹介します。

※本記事は福田遼,秋山仁志『先生、どうする!?子どものお悩み110番』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです

Q 長期化した不登校。また学校に行けるようになる?

中学校3年生の娘がいます。2年生の最後から約半年間学校に行っていません。友だちとも、それ以来、半年間かかわっていない状況です。家では昼頃に起きてきてリビングで過ごし、お菓子をつくったり絵を描いたりしています。親としては、また楽しく友だちと遊んだり、高校に行ったりできるようになってほしいのですが……。

A 3ステップで自立をめざそう

自立して生きていける力をつけることが第一

ひとし:今回も不登校のお悩みですね。行きしぶり段階だった前回と違って、すでに不登校が長期化している状態、と。

はるか:まず、ちょっと自分の話をさせてもらいたいんだけど、いいですか?

ひとし:うんうん。

はるか:これまでも不登校とか、その他いろんな子育てのお悩みについて、自分の知識や方法論を一生懸命発信してきたんだけど……。一方で、僕は子育てを経験してないから、実践はできてないって点がコンプレックスだったんです。とくに不登校の子を支援する難しさは、親御さんと同じようには理解できてないよな、と。

なので今回、実際に不登校に悩む方を募集して、親御さんがどう対応したらいいかを一緒に考える支援をさせていただいたんです。実は、今回のお悩みは、5人の方の支援をしたうちのひとりの方が抱えていたものです。

ひとし:おぉ、コーチング的なことをやってみたってこと?

はるか:そうそう。毎日テキストでやりとりしたり、週に1回オンラインで話したりして、だいたい6週間くらい親御さんたちに伴走させてもらいました。

ひとし:すごいね! 6週間で何か変化はあった?

はるか:結果を言うと、この子は学校と同じタイムスケジュールで過ごすことができるようになって、さらには高校に行くと決めて、受験に合格しました!しかも友だちに自分から連絡して、会いに行くこともできたんです。

ひとし:へぇ、すごい!!

はるか:もう俺もうれしすぎて……! こんなに変わるんだ、って涙出た。だから今回は、この子や他の子に実践してみて効果があった、不登校が長期化した場合の対応についてお話ししたいと思います。

ひとし:なんか説得力があっていいね。まず「長期化」って期間の定義があるの?

はるか:文部科学省の定義では「年間30日以上の欠席」が不登校とされてるんだけど、行ったり行かなかったりじゃなくて、はっきりと学校に行ってない状態が続いているのであれば、日数にかかわらず長期化していると考えていいと思います。

まず今回は、「学校に再登校すること」を目標にするのをやめました。

ひとし:えっ、そうなんだ。前回は「学校に行ってもらいたい」ってスタンスだったよね?

はるか:そうそう。でも今回はすでに長期化してる子たちだから、同じように考えるのは難しいなと思ったんです。「学校に戻る」ってハードルが高い目標を掲げたら、なかなか自信が回復できなくて、学校との溝も親子の溝も、むしろ深まってしまうかもしれない。そこで、そもそも親御さんや本人の本当の願いはなんだろうと考えてみたんだよね。

ひとし:なんだろう? 学校に行くことじゃなくって?

はるか:僕は、本当の願いは「大人になったときに自立して生きていく力をつけること」で、学校に行くことは、そのための手段の一つだと思ったんです。この子がきちんと生活をして、勉強して、大人になったときに幸せに生きていける状態をめざす中で、また学校に行くこともあるかもしれないし、そうじゃない選択をするかもしれない。そんな前提で支援することにしたんです。

目標は「学校と同じスケジュールで生活すること」

ひとし:なるほどね。前回の行きしぶりへの対応とは、前提から全く違う感じだ。

はるか:そう。そこで「学校生活と同じスケジュールで生活すること」を目標として設定しました。

ひとし:けど、すでに長期間おうちで自由に過ごしてきた子たちにとって、実際に学校と同じように過ごすのって難しそう。

はるか:うんうん、これもけっこう高いハードルなんだよね。だから、親御さんには「三つのステップでやっていきましょう」とお伝えしました。

まず一つめのステップは、コンプリメント(褒め言葉)です。

ひとし:やっぱコンプリメントはどんな段階の子にも欠かせないんだね。

はるか:うん。そのためにも、目標はスモールステップを意識して、「その子が絶対にできそうなこと」から始めてほしいです。そこからの変化に対してたくさんコンプリメントを積み重ねていくイメージです。「昨日より早く起きれたね」とか。

ひとし:「前より朝話せる時間が増えてうれしいよ」とか?

はるか:そうそう! そして二つめが「GOOD&NEW(※1)で一日をふり返り、次の日の計画を立てること」です。これはアメリカの教育学者、ピーター・クラインさんが開発した手法を基にしています。お子さんに毎日、一日の中で良かったこと、もしくは新しいことをノートに三つ書いてもらうようにするんです。書くのは「友だちに会えた」とか「絵を描いた」とか、たったひと言でもOK。そうやって意識的にプラス面を見る時間をつくると、だんだん良いことや新しいことに目を向ける習慣ができて、ポジティブな思考回路が生まれていくんですよね。

ひとし:それいいね! しかも、次の日の計画を立てるっていうのはコンプリメントの布石になりそう。

はるか:まさにそう! 計画を立てることで「決めたことを実行する力があるね」とかってコンプリメントの機会が増えるんだよね。このふり返りと計画を続けていくことで、お子さん自身の中でも、親子関係の中でも、好循環が生まれます。

そして三つめが「トークンシステムを取り入れること」です。

ひとし:あ、前にやったね。ラジオ体操のスタンプみたいなシステムだよね。

はるか:そうそう! たとえば、学校と同じタイムスケジュールで生活できたら1ポイント。10ポイントたまったら好きなお菓子を買う。30ポイントたまったら、一緒にお寿司を食べに行く。70ポイントたまったら、旅行に行っちゃう。そんなふうに、お子さんとご褒美をつくって、モチベーションをあげていく方法です。

ひとし:ご褒美は子どもと一緒に決めるのが大事だったよね。

はるか:そうそう! 達成ペースを考えつつ、お子さんが本当に喜ぶご褒美にするのがいいと思います。

もしお子さんが集中力の長く続かない子だったりしたら、もっとスモールステップを導入してもいいと思います。たとえば1時間でも学校と同じようにできたらシールを半分貼る、とかです。小さなステップでも、トークンがもらえたら、成功体験の蓄積になるし、子どもの動機を引き出せると思う。長く継続していく中で、「2枚目のトークン表からは、3時間学校と同じようにできたらシール半分にしよっか」なんて、ちょっとずつステップアップしていく設計ができるとなおいいんじゃないかなと思います。

ひとし:なるほどね。今回5人の方のサポートをしてみて、うまくいかなかったってケースはないの?

はるか:もちろん、全員がずっとうまくいったわけじゃなくて。「今週は全くダメでした」ってときもあったし、なかなか変わってくれないと悩んだこともありました。でも、うまくいかなくても「コンプリメントだけでも……!」とかって継続していくと、みんな変化はあったんです。

ひとし:そっか。絶対変化するって信じて継続するのが大事だね。

はるか:うん。でも僕も親としてひとりで対応するって考えたら、これは相当きついな、と痛感しました。今回は僕が「絶対に変わります!」と言い続けられたから、皆さんがんばって続けてくださったのかなって。だからこそ、改めて「不登校は親の責任だ」みたいに背負わなくていいし、いろんな専門的な支援も積極的に視野に入れてほしいな、と強く思いました。

※1 GOOD&NEW:ピーター・クライン氏がチームの活性化やアイスブレイクのために開発した手法。24時間以内に起きた「良かったこと(GOOD)」や「新しい発見(NEW)」をひとりずつ発表する取り組み。企業の朝礼などで導入されている例が多い。参考文献『こうすれば組織は変えられる! 「学習する組織」をつくる10ステップ・トレーニング』(ピーター・クライン、バーナード・サンダース著、今泉敦子訳、フォレスト出版)

はるか先生のワンポイント

「学校に再登校する」という高い目標は掲げずに、「学校と同じスケジュールで生活すること」をめざそう。
①コンプリメント(褒め言葉)をかけよう
②GOOD&NEWで一日をふり返り、次の日の計画を立てよう
③トークンシステム(ポイントと報酬)を取り入れよう

先生、どうする!? 子どものお悩み110 番

先生、どうする!?子どものお悩み110番』(福田遼,秋山仁志/PHP研究所)
「JAPAN PTODCAST AWARDS」大賞・教養部門、2冠!
大人気ポッドキャスト「子育てのラジオ『Teacher Teacher』」、初の書籍化!
子どもにガミガミ怒ってばっかりの自分に、ドンヨリ。 うちの子の将来、このままでだいじょうぶかな、と不安になる……。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えるすべての親御さんに届けたいーー。
元小学校教師のはるか氏と、友人でラジオ番組プロデューサーのひとし氏の二人が、子育てに悩める親御さんの気持ちに寄り添い、「明日やってみよう」と思える、22の「神回答」をお届けします。